引用:Wikipedia
ニッポノサウルスを知っていますか?
「興味はあったけど、詳しくは知らない」
「見た目は草食恐竜っぽいよね」
という方がほとんどではないでしょうか。
「名前はやっぱりニッポンと関係があるのかな」
と思う方もいるかもしれません。
ニッポノサウルスがどんな恐竜なのか、名前はニッポンと関係があるのか等、以下で詳しく解説します。
基礎データと大きさや餌、特徴
学名の意味
鳴き声
ニッポノサウルスは幻?種が認められるまで
まとめ
目次
ニッポノサウルスの基礎データ!大きさや餌、特徴とは
「ニッポノサウルスってどんな恐竜だったの?」
「大きかったのかな?」
画像を見ると、想像が膨らみますよね。まずはニッポノサウルスの基礎データからおさえていきましょう
基礎データと大きさ
学名:ニッポノサウルス・サハリネンシス
分類:鳥盤目鳥脚亜目ハドロサウルス科ランベオサウルス亜科ニッポノサウルス属
地質時代:中生代白亜紀後期(約8300万~8000万年前)
生息地:ロシア
全長:約4m
体重:約1t
ニッポノサウルス・サハリネンシス(以下ニッポノサウルス)は全長約4m、体重約1tの草食恐竜です。ただし、これは子どもの大きさで、大人になるとどれくらいになるのかはわかっていません。
発見当時は子どもという事がわかっていなかったので、小型の恐竜だと考えられました。
子どもだとされた後も、ニッポノサウルスが独立した種として認められないという意見があったり、 種が確立するまでには大変な紆余曲折がありました。
その経緯については「4.ニッポノサウルスが固有の種と認められるまで」で詳しく解説します。
特徴〜姿と、頑丈な歯について〜
ニッポノサウルスが含まれるハドロサウルス類は、口先が鴨のように平たくなっている事から、カモノハシ竜と呼ばれています。カモノハシ竜は優しい顔をした、可愛い恐竜です。
ニッポノサウルスももちろん平たい口を持っており、鼻から眼窩にかけて低めのトサカを持っていました。
引用:ひとり古生物祭り
ニッポノサウルスはハドロハウルス類の内でも派手なトサカを持つランベオサウルス類に属しているので、このトサカも大人になると高さのある半円形になったのではないかと推測されています。
また、カモのようなくちばしの先には歯がなく、奥の方におろし金のような細かい歯を持っていました。これはデンタルバッテリーとよばれるもので、植物食恐竜の一部に見られる特殊な構造です。微細な歯が集合して一枚板ようになったものが幾つも重なっていて、最上列の歯が磨耗するとすぐに下列の歯が置き換わり、常に鋭敏な咀嚼面が保たれるようになっていました。
ハドロハウルスの成体と幼体の下顎の化石
引用:Wikipedia
餌について
ニッポノサウルスは植物食恐竜なのでもちろん植物を食べていたのですが、前述したデンタルバッテリーという歯の構造がとても植物食に適していました。くちばしでむしった植物をデンタルバッテリーですり潰して食べていたため、食べた植物は口の中である程度消化できていたと考えられています。
そのため、多様な植物を効率よく餌とする事ができたようです。
また、ハドロサウルス類は甲殻類を食べた形跡も見つかっています。現代の草食の鳥類でもこれに似た行動が確認されている事から、繁殖期の行動だと思われます。
ニッポノサウルスの発見と学名の由来は?
それでは、いよいよニッポノサウルスとニッポン=日本との関係について見ていきましょう。
「名前はニッポンに由来してるんだよね?」
「日本の恐竜だとしたら、なんであまり有名じゃないの?」
そんな疑問に答えたいと思います。
発見の経緯、学名の由来とは?
ニッポノサウルスが見つかったのは、1934年、当時日本の領土だった樺太です。三井鉱山川上炭鉱内の病院建設現場から頭骨の一部・骨盤・腰椎・後脚等、全身の多くの部分が見つかりました。
樺太は1905〜1946年まで日本の領地で、現在はロシア領のサハリン島となっています。
発掘された化石は北海道大学へ運ばれ、長尾巧さんによって、1936年に命名・発表されました。
当時日本だった場所で見つかり、日本人によって命名されたから「サハリンの日本トカゲ」という意味の「ニッポノサウルス・サハリネンシス」という名前になったんですね。ニッポンリュウ(日本竜)と呼ばれる事もあります。
ニッポノサウルスは日本人によって研究・命名された初めての恐竜なので、日本の恐竜研究の起源なのです。
しかし、現在のサハリン島はロシア領。更に日本とロシア間の領土問題はとてもデリケート…というわけでニッポノサウルスを堂々と「日本の恐竜」という事も憚られ、結果として知名度がいまいちとなってしまいました。
とは言っても日本の恐竜研究の起源なわけですから、日本人としてはニッポノサウルスにもっと有名になって欲しいですよね。
長尾巧さんは発見当初には見つからなかった部分を探すために、3年後に再び発掘調査を始めました。その際、建設中の病院を発掘のために取り壊してしまったみたいです。とてもパワフルな人物ですね。
その甲斐あって、中足骨・指骨の一部・2つの大腿骨・左の尺骨と、四肢の骨をを発見します。
これによって、全身の60%ほどの骨格が揃いました。日本では、これほど完璧な骨格はほぼ発掘されていません。
どこから見つかったの?
骨が産出したのは白亜紀に形成された海成層のため、海岸で死亡したか死後に死体が海浜に移動したと推測されています。
海の地層から全身骨格が発見されるのは世界的にも稀であり、名前がついているハドロサウルス科では、長い間ニッポノサウルスのみでした。
2013年に発表されたカムイサウルスが、世界で3例目となったのですが、これが発見されたのも北海道のむかわ町と日本です。
珍しい例のうち、2つが日本だなんてすごいですよね。
ニッポノサウルスの標本は北海道大学に保管されており、日本で見つかった恐竜化石の中で、とても保存状態の良い全身骨格として知られています。
ニッポノサウルスの鳴き声とは?
ニッポノサウルスの鳴き声についてはよくわかっていませんが、ドーム状のトサカの中に空洞があった事から、鳴き声を反響させていたのではないかと考えられています。
同じハドロハウルス類の恐竜には、鳴き声に特徴のあるパラサウロロフスがいます。こちらは映画『ロストワールド』にも登場した恐竜で、2mにも及ぶトサカを持っていました。
パラサウロロフス
引用:恐竜図鑑
鳴き声を使って仲間と会話したり、声を共鳴させる事で低く太い音を出したり、大きな音でティラノサウルス等の肉食恐竜を威嚇する事もあったようです。
もしかしたら、ニッポノサウルスも同じような事をしていたかもしれませんね。
ニッポノサウルスは幻?種と認められるまで
発見当時は小型の恐竜だと思われていたニッポノサウルスですが2004年に再研究が発表され、その結果子どもの骨である事がわかり、北米のハドロハウルス類ヒパクロサウルスと近縁であるとされました。
しかし、その後の研究で対立する仮説が複数提唱され、ニッポノサウルスが独立した種であることも否定されてしまいました。
これは恐竜の骨の形が成長と共に変化するためです。子どもであったニッポノサウルスは、既存の他の恐竜の幼体の時の姿ではないかと思われてしまったのです。
そこで北海道大学ではニッポノサウルスの3本の骨を切断して内部構造を調べたところ、その内の大腿骨の血管の構造や、木の年輪のように恐竜の年齢の指標となる「成長停止線」が2本しかない等、若い個体の特徴があったため、性成熟を迎える前の個体である事が解明されました。
また、ハドロハウルス類の幼体から成体までの多くの成長段階の骨の形状を比較することでハドロハウルスの骨の形状が成長に伴ってどのように変化するか明らかにします。
その上で成長段階で不変な部分を見つけ出し、そこに以下のようなニッポノサウルス固有の特徴を発見しました。
1.下顎の広い棚状構造
2.その棚上構造から垂直に伸びる筋突起
3.非常に短い前肢
これによってニッポノサウルスは他の恐竜の幼体ではなく、固有の種だと言うことが証明されたのです。
多くの骨の特徴として、若い個体は原始的で、成長と共に進化的な特徴を獲得する傾向が見られたそうです。
また、ニッポノサウルスはこれまで考えられていたよりも原始的なハドロサウルス類で、北米ではなくヨーロッパのハドロサウルス類と近縁である事がわかりました。
そのため、これまで考えられていたように北米から渡来したのではなく、ヨーロッパからユーラシア大陸を渡り、極東まで移動した恐竜の一種と判明しました。
ヨーロッパと活発な交流があったようです。
まとめ
・ニッポノサウルスは、初の日本の恐竜のため「サハリンの日本トカゲ」という意味の学名がつけられた
・海の地層から見つかる保存状態の良い全身骨格は非常に稀であり、日本恐竜研究の起源となる大発見だった
・デンタルバッテリーという植物食に適した歯を持っていて、多様な植物を食べる事ができた
・鳴き声については詳しくわかっていないが、トサカで反響させていたと考えられている
・北海道大学の再々研究によって固有の種である事が証明された
ニッポノサウルスは日本人による初めての恐竜研究です。発掘や研究に関わった人は、とてもびっくりしたでしょうね。それと同時にとてもわくわくしただろうなぁと想像すると、とても羨ましいですね。