引用:DINOSAUR ART YOSHIAKI KASHIWAZAKI
まるで鳥のように卵を抱くキチパチ。
系統的にも鳥類に近いとされるオヴィラプトル科に分類される恐竜です。
そんなキチパチですが、
「いったいどんな恐竜なの?」
「変わった名前だけど、どんな意味かな?」
など、気になる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、キチパチについてもっと知りたい方のために、次のような内容で詳しく解説しています。
・どんな恐竜?
・体長や重さは?
・餌は何だったの?
・名前のキチパチってどういう意味?
目次
キチパチはどんな恐竜?
【基本情報】
学名 | Citipati osmolskae (キチパチ・オスモルスカエ) |
分類 | 竜盤目、獣脚亜目、コエルロサウルス類、オヴィラプトロサウルス類、オヴィラプトル科、オヴィラプトル亜科、キチパチ属 |
時代 | 後期白亜紀(約8000万年前) |
生息場所(発見地) | 中央アジア(モンゴル) |
食性 | 不明 |
繁殖形態 | 卵生 |
キチパチは、オヴィラプトロサウルス類、オヴィラプトル科に分類されています。
抱卵する姿や卵が化石として発見されている珍しい恐竜です。
キチパチの抱卵は、卵を風雨や外敵から守る役割のほか、鳥のように温めるためと考えられています。

また、キチパチにはクチバシとトサカがあり、体には羽毛が生えていました。
トサカは他のオヴィラプトル科の恐竜と異なり、前縁がほぼ垂直に立ち上がる形状で、高さもありました。
キチパチ・オスモルスカエと未記載種Citipati sp.の頭部想像図
引用:wikipedia
キチパチの大きさは?体長と重さ
キチパチは体長約3m、体重約230kg、エミューほどの大きさだったと考えられています。
キチパチと成人男性の大きさの比較
引用:Wikimedia
オヴィラプトロサウルス類には他に20種ほどが分類されていますが、2007年にギガントラプトルが発表されるまでキチパチが最大の恐竜とされていました。
その後、ギガントラプトルに次ぐ大きさのベイベイロンが発表されています。
他のオヴィラプトロサウルス類との比較
学名 | オヴィラプトル | キチパチ | ベイベイロン | ギガントラプトル |
体長 | 約1.5m | 約3m | 約7.6m | 約8m |
体重 | 約25〜36kg | 約230kg (推定) | 約3t | 約1.5~2.2t |

キチパチの餌は〇〇?
キチパチの食性ははっきりとは分かっておらず、肉食、植物食、雑食など研究者によって主張は様々です。
他の動物を食べていた?
一番有力なのが、肉食だったという説です。
キチパチの巣からビロノサウルスという恐竜の赤ちゃんの頭蓋骨が見つかっていることから、キチパチがこれらを食べていたと考えられています。
しかし、この赤ちゃんがなぜキチパチの巣にいたのかということまでは分かっていません。
ビロノサウルスの親が托卵した可能性も考えられます。
植物を食べていた?
複数のオヴィラプトロサウルス類からは胃石(草食恐竜が食べ物をお腹の中ですり潰して消化するための石)が発見されています。
そのため、キチパチも植物食だったのではという説もあります。

雑食性だった?
キチパチを含めオヴィラプトロサウルス類の恐竜は顎の力が強かったと考えられています。
さらに、くちばし状の口の形からも種子食であったとの見方や、貝を食べていたとの説もあります。
また、オウムやカメとの比較研究の結果、オヴィラプトロサウルス類が果実や硬い種子、卵などを食べる事が可能だったとされています。

キチパチってどういう意味?
キチパチは火葬に使用する薪を泥棒から守るヒマラヤの守護神の名前です。
古代インドの言語サンスクリット語でキチは『火葬』パチは『王』、つまり『火葬の王』と直訳されます。
キチパチは炎に囲まれて踊る一組の男女の骸骨として描かれることが多く、発見された骨格が綺麗な状態であったことから名付けられました。
なお、表記はCitipatiですが、日本ではキチパチ、シチパチ、キティパティ、シティパティなど呼び方は様々です。

小種名のオスモルスカエは、オヴィラプトロサウルス類などの獣脚類の研究に貢献したポーランド人の古生物学者ハルシュカ・オスモルスカ博士に敬意を表して献名したものです。
オスモルスカエの「エ」は種名に女性の名前を使用する際に付ける語尾です。
キチパチの化石
キチパチの化石は、現在のモンゴル・ゴビ砂漠があるウハー・トルゴッドで1995年に発見されました。
その際に発見されたのは、卵と巣で卵を抱く親と思われる骨格でした。
営巣するキチパチの標本、通称「Big Mamma」
引用:wikipedia
その後2001年に、ジョージワシントン大学の生物学者ジェームズ・M・クラーク博士、アメリカ自然史博物館のマーク・ノレル博士、モンゴルの古生物学者リンチェン・バルスボルド博士によってキチパチとして発表されました。
また、1981年に発見されてオヴィラプトロサウルス類のものとなっていた全身骨格も、のちにキチパチ属と判明しています。

砂丘が崩れて生き埋めになったか、砂嵐で死亡し、そのまま砂に埋れたのではないかと考えられています。
卵から〇〇を発見!
胚が保存されたキチパチの卵
引用:wikipedia
卵の中からは、孵化する前の胚(赤ちゃん)が発見されました。
赤ちゃんはトサカこそ発達していませんでしたが、顎の骨の形などからシチパチであると判明しました。
卵は細長い楕円形で大きさは約18cm、現存する生物の卵の中で一番大きなダチョウの卵と同じくらいの大きさです。
オヴィラプトル科の卵としては最も大きいことがわかっています。
質感や殻の構造はダチョウやエミューなど平胸類の卵と似ています。

1つの巣に卵は22個ほどで、綺麗にドーナツ型に並べられており、割れないように間隔もあけられていました。
どのように卵を抱いていたの?
引用:CARNEGIE MUSEUM OF NATURAL HISTORY
キチパチは卵を体重で潰さないように中心のあいたスペースに成体が座っていたことがわかっています。
そこから羽がついた翼状の前腕を広げて卵を包んでいました。

また、骨の内部構造などを調べた結果、オスが卵を抱いていたこともわかっています。
卵を抱いた姿で化石になるということは、オスは子供達を守るため最後まで卵から離れずに死んでしまったのでしょう。我々も見習わなければいけませんね。
オヴィラプトルは卵泥棒?
オヴィラプトル科とはラテン語で卵泥棒という意味です。
別の恐竜の卵を盗んでいるときに砂嵐などの理由で死亡し、一緒に化石になったと思われてしまったのです。

1923年、ゴビ砂漠で草食恐竜であるプロトケラトプスの化石多数と、世界で初めて恐竜の卵の化石が発見されました。
発見者は、アメリカの動物学者ロイ・チャップマン・アンドリュース氏です。
発見された卵の大きさは15cmほど。周囲の状況からプロトケラトプスの卵であると考えられました。
オヴィラプトル科の恐竜は、卵のすぐそばから発見されたため"卵を狙って巣に近づいた"と、そのまま名前を付けられてしまったのです。


しかし1990年代に入り、再び卵に覆い被さっているオヴィラプトル科の恐竜の化石が複数発見され、あまりに多く不自然であると考えられるようになりました。
1993年、プロトケラトプスのものとされていた卵を調べた結果、中身がオヴィラプトル科の胚(胎児)だということがわかったのです。
その後、2001年にこの胚はキチパチ属のものと分類されました。

約70年もの間、卵泥棒だと考えられていたなんてなんだか可哀想ですね。
twitterにも案ずる声が上がっていました。
https://twitter.com/keetaGG/status/1257320408467910658?s=20
キチパチがオヴィラプトルと同一と思われている?
オヴィラプトル科の系統樹
系統樹内画像引用:wikipedia
キチパチが属するオヴィラプトル科にはオヴィラプトル・フィロケラトプスという種の恐竜がいます。
キチパチはそのオヴィラプトルと同一と思われてしまい、"キチパチ"ではなく"オヴィラプトル"や"オヴィラプトル科の恐竜"として表記されていることも多くあります。
なぜそのようなことになったのか、原因を種に分けて解説します。
オヴィラプトル・フィオケラトプス
オヴィラプトル・フィロケラトプス (1924年 新種記載)
・唯一の標本の頭骨は、潰れて保存状態が悪く、キチパチsp.の頭骨がオヴィラプトルの典型的な外見とみなされている
・現在知られているオヴィラプトルの姿は実際にはキチパチ属の姿であることが多い
キチパチ・オスモルスカエ (2001年 新種記載)
・1993年プロトケラトプスのものとされていた卵からキチパチの胚が確認されたが、当時はキチパチは命名されておらず"オヴィラプトル科の卵"として発表され、これが広く知られた
・現在でも学名を記載せず"オヴィラプトル科の恐竜"と表記されることが多い
キチパチsp. [標本 IMG100/42] (未分類、未記載のため分類・名前は暫定的)
・オヴィラプトルの典型的な外見とみなされ、オヴィラプトル科で最も有名な標本
・トサカの高さなどからキチパチの一種ではないかと考えられている
・キチパチ・オスモルスカエとはクチバシの形状、体の大きさが異なる
全てオヴィラプトル科の恐竜であることには違いありませんが、キチパチとオヴィラプトルは違う種の恐竜です。
オヴィラプトルの標本がほとんど発掘されていないため、キチパチやキチパチsp.の標本がオヴィラプトルを説明するために使用され、混同を招いているのでしょう。
まとめ
キチパチの下記の内容などについて解説してきました。
・キチパチは巣で卵を抱いていた
・キチパチの大きさは、体長約3m、推定体重230kg
・キチパチの食性ははっきりとわかっていないが、有力なのは肉食
・キチパチは火葬の王というヒマラヤの守護神の名前からつけられている
一つの化石の発見から、様々な事実が判明したり、それまでの常識が覆ったり、恐竜の研究は面白いですね。
これからも研究によって新たな事実がたくさん解明されると思うと、楽しみでなりません。